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東京家庭裁判所 昭和34年(家)2380号 審判

申立人 小林伸子(仮名)

理由

一、申立人の申立の要旨は

長野県上伊那郡○○村役場備付

本籍長野県上伊那郡○○村大字○○○一〇八〇番地戸主小林政治の戸籍中長女伸子の昭和二十四年六月二十日東京都豊島区○○三丁目○番地二に新戸籍編製につき除籍及東京都豊島区役所備付本籍東京都豊島区○○三丁目○番地二昭和二十四年六月二十日長野県上伊那郡○○村大字○○○一〇八〇番地小林政治より入籍とあるを削除することの訂正許可の審判を求む

と云うのであつて、その理由とするところは以下の通りである。

一、長野県上伊那郡○○村三〇八番地戸主小林梅三は昭和十五年六月二十二日死亡し、相続開始したが、同人には直系卑属等の法定相続人も又指定相続人もなかつたのて、昭和十七年九月二十日被相続人の親族である申立人が親族会により被相続人の家督相続人に選定せられたものである。

一、叙上のように申立人は他家相続をしたので、分籍することはできないのに拘らず、昭和二十四年六月二十日筆頭者小林政治の戸籍より東京都豊島区○○三丁目○番地二に分籍した上、昭和三十二年六月二十六日同番地二小林次郎と婚姻したものであるが、右分籍は無効であるからその旨戸籍訂正をするについての許可を求めるというのである。

一、しかしながら昭和十七年九月十五日被相続人小林梅三の家督相続人選定のための親族会員として、申立人の実父小林政治、大下太郎及び小林勝一の三名が選任せられたことは認められるけれども、其の頃家督相続人選定のための親族会が適法に招集されたという点について確認がない。尤も証明書と称する書面に徴すれば或は其の頃親族会員中小林勝一が応召出征中であつたが、残余の親族会員により申立人の家督相続人の選任がなされたのでないかと思われるような事情もみうけられるけれども、申立人に於て右の選定行為を応諾する行意があつたと認められるよりも、却つて昭和二十四年に至り申立人が分籍手続に及んだことに徴すれば、少くとも昭和二十二年十二月末日迄には申立人には他家相続する意思がなかつたものとみとめられる外はないから、右相続人選任の親族会の決議は実現されるに由なかつたものである。

一、そうして民法附則第二十五条によれば、選定家督相続人として有効に相続をするには、新法施行までに相続人選定が了しなければならなかつたものであるから、その事実の認められない申立人については、被相続人梅三の相続人とならなかつたものと解する外はない。従つて申立人の前示分籍届は無効とは云えないから、本件申立は理由のないものとして主文の通り審判する。

(家事審判官 村崎満)

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